注目されるNISAの抜本改革と「1億円の壁」問題

2023年度税制改正に向けて、年末に公表される税制改正大綱を実質的に決定する自民党税制調査会(宮沢洋一会長)での議論が始まった。8月末に財務省に提出された各省庁や経済団体等の税制改正要望をについて、税調幹部が各省庁等から意見を聴取し、11月下旬に自公両党が税調総会を開始して12月上旬に与党税制改正大綱をまとめる。来年1~2月に税制改正法案が国会に提出され、例年3月末に法案が国会で可決・成立する運びとなる。

2023年度税制改正の焦点は、岸田政権が掲げる「資産所得倍増プラン」を実現するための柱となる、少額投資非課税制度(NISA)の恒久化や非課税保有期間の無期限化、年間投資枠の拡大などの抜本的拡充とみられている。NISAは、金融商品の売却益などが一定の範囲で非課税となる制度で、英国の制度を参考に2014年に導入されたものだ。現在、「一般NISA」、「つみたてNISA」、「ジュニアNISA」の3種類がある。

金融庁は、制度の恒久化とともに、非課税保有期間(現行:一般NISA5年間、つみたてNISA20年間)の無期限化、年間投資枠(同120万円、40万円)を拡大し、弾力的な積立を可能にすること、非課税限度額(同600万円、800万円)の拡大(簿価残高に限度額を設定)、長期・積立・分散投資によるつみたてNISAを基本としつつ、一般NISAの機能を引き継ぐ「成長投資枠(仮称)」の導入を求めている。

また、2023年で制度を終えるジュニアNISAの受け皿とするため、つみたてNISAの対象年齢(現行20歳以上、2023年以降は18歳以上)を未成年者まで拡大することも要望している。一方、資産形成の税優遇は恩恵が偏らないことも重要だ。つみたてNISAの口座を持つ投資家のうち3割は買い付け実績がないことがある。単に制度を拡充するだけでは、富裕層だけが恩恵を享受することになりかねない。

富裕層と言えば、金融所得課税の強化も焦点の一つとなる。政府税制調査会の会合で、1億円を境に税負担率が下がる「1億円の壁」と呼ばれる問題の是正を求める声が相次いだ。通常、所得課税は累進税率(最高45%)を採っているが、金融所得は一律20.315%と、金融所得がどれだけ高くても負担税率は同じだ。1億円を超えると税負担率が28.8%から減少し始めるため、富裕層は金融所得を増やそうとする。これが「1億円の壁」だ。

そこで、金融所得課税の見直しも議論の一つとして浮上している。見直しの方向としては、(1)総合課税に含めて給与などと合算して課税する、(2)利益に応じて金融所得の税率を変更する、などの方法が提案されている。しかし、金融所得の税率が20.315%から引き上げられると、資産形成のために投資している一般投資家が株式市場から離れてしまう懸念もある。今後の与党税調での議論の行方が注目されるところだ。