2017-10-04
昨今、自己株式の取得が上場企業を中心に増加しているが、中堅・中小企業においても、株主構成の是正や事業承継対策などの経営上の必要性から自己株式を取得するケースは十分に想定される。自己株式の取得は、株主に対するいわば「資本の払戻し」と考えられる。会社と株主との間の資本取引となるので、会計処理は、株主から購入した自己株式の取得価額をもって純資産の部の株主資本から控除する。
会計上の表示方法としては、「自己株式」として純資産の部の株主資本の末尾に一括して控除する形式で表示する。一方、税務上においては、自社の株式を取得する方法によって、取扱いが異なるが、中小企業は、株式を公開しておらず、譲渡制限が設けられているため、基本的に特定の株主から直接購入することになるので相対取引となる。自己株式を特定の株主との相対取引で取得する場合は、株主総会の特別決議が必要になる。
相対取引により会社が自己株式を取得した場合には、自己株式の取得価額のうち、取得資本金額といわれる取得した株式に対応する資本金等の額を、資本金等の額から減算し、取得資本金額を超える部分の金額については、利益積立金額を減算することとされる。この利益積立金額の減算部分は、「みなし配当」といわれ、利益の配当としてみなされる。この際、会社側では、利益の配当部分について源泉徴収を行う必要がある。
自己株式の取得に応じた個人株主においては、みなし配当所得課税と株式譲渡所得課税が想定される。利益の配当とみなされた部分は、配当所得として総合課税により所得税が課される。また、株式の譲渡対価の額が株主側における株式の帳簿価額を上回る場合には、譲渡利益が生じ、譲渡所得として分離課税により所得税が課される。つまり、株主においては、配当と譲渡利益でそれぞれ課税が発生する可能性がある。
なお、自己株式の取引は、適正な時価で行う必要があり、その算定方法は様々だが、税務上は、直近の売買実例価額、類似会社の株式の価額に批准した価額や発行法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額によることとされる。算定した時価と著しく乖離する価額により取引した場合には、寄附金課税や受贈益課税、給与所得課税又は一時所得、みなし譲渡所得課税などの課税リスクが生じるので注意したい。