定年延長に際して支払う退職一時金の所得区分に明暗

安定的な雇用確保のために就業規則等を見直して定年を延長する会社が後を絶たないが、従業員が「延長前の定年(旧定年)」に達したときに支払う退職一時金の税務上の取扱いについては、定年延長前からいる従業員と、定年延長後に入社してきた従業員とで異なる場合があるので注意が必要となる。これはこのほど、ある企業からの事前照会に対する熊本国税局の回答で明らかとなったもの。

所得税基本通達は、引き続き勤務する者に退職手当等として一時に支払われる給与のうち、労働協約等を改正していわゆる定年を延長した場合に、その旧定年に達した使用人に対し旧定年前の勤続期間に係る退職手当等として「相当の理由」があって支払われる給与で、その給与が支払われた後に支払われる退職手当等の計算上その給与の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない条件下に支払われるものは退職手当等とする旨を定めている。

照会者の企業は、2019年4月1日以降は従業員の定年を60歳から64歳に延長することを決定し、この定年延長に伴い、就業規則を改定し、従業員の入社時期にかかわらず、一律で延長前の定年である満60歳に達した日の属する年度末の翌月末までに退職一時金を支給することを予定。この退職一時金は、旧定年である満60歳に達した日の属する年度末までを基礎として計算し、定年を延長した期間に対する退職金の支給はしない。

また、同社は、従業員が満60歳に達した後の給与水準を40%程度減額することを予定しているが、定年延長後に入社する従業員に対して旧定年のときにこの退職一時金を支給することについても、その従業員のその後の生活資金の補填及び人生設計における資産の購入資金に寄与することから、上記所基通にいう「相当の理由」があると判断。この退職一時金が所基通に定める給与に該当し、退職所得として取り扱ってよいかを照会した。

これに対し熊本国税局は、定年延長前からいる従業員については同社の解釈を認める一方で、定年延長後に入社する従業員については、既に定年の延長が就業規則等で決定した後に雇用されることから、雇用の開始時点で定年を64歳として採用されるため、「労働協約等を改正していわゆる定年を延長した場合」には該当しないと指摘。このため、同所基通は適用されず、退職所得として取り扱われるとは限らないとの判断を示している。