2020-04-02
国税不服審判所はこのほど、2019年7月から9月分の裁決事例を同所HP上にある「公表裁決事例要旨」及び「公表裁決事例」に追加し公表した。今回公表された裁決事例は、12事例(国税通則法関係1件、所得税法関係4件、相続税関係3件、消費税法関係1件、国税徴収法関係3件)だった。うち8事例において納税者の主張が認められ、全部又は一部が取り消されており、実務家にとっても参考となろう。
このうち、所得税法関係では、請求人らが賃貸の用に供していた土地の上に存する当該土地の賃借人所有の建物収去のための請求人らの支出は、客観的にみて、請求人らの不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものであったといえるから、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができるとして、所得税等の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を全部取消した事例がある。
原処分庁は、請求人らが賃貸していた土地は、賃貸借契約により請求人らの事業の用に供されていない資産であるから、本件土地の上に存する本件土地賃借人所有の各建物を収去するため請求人らが支出した費用(建物撤去費用)は、所得税法第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》第1項の家事上の経費に該当し、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できない旨主張した。
しかしながら、裁決は、請求人らは、一連の法的手続きを執ることにより賃料を支払わない賃借人から本件土地の明渡しを受け、それと並行して新たな賃借人への貸付けに取り掛かり、また、この間、本件土地を賃貸業務以外の用途に転用したことをうかがわせる事情も認められないことからすれば、本件土地の貸付けに係る業務は、賃貸借契約終了後、本件各建物の収去に至るまで継続していたものと認められると指摘。
加えて、賃借人は無資力であり、建物撤去費用を支出の時点で、請求又は事後的に求償しても、およそ回収が見込めない状況にあり、客観的にみても、建物収去費は、請求人らが自ら負担するほかなかったと認められる。すると、本件建物収去費の支出は、請求人らの不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものであったといえるから、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができると判断している。