相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例の活用

相続財産を何らかの理由で手放すことは少なくないが、この時に発生した譲渡益には所得税がかかり、負担となってしまう。そこで、相続または遺贈により取得した土地、建物、株式などの財産を、一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算できる「取得費加算の特例」がある。この特例は譲渡所得のみに適用がある特例なので、株式等の譲渡による事業所得及び雑所得については、適用できない。

特例の適用を受ければ譲渡所得から差し引ける金額が増えることになるので、所得税の節税につながる。特例の適用を受けるための要件は、(1)相続や遺贈により財産を取得した者であること、(2)その財産を取得した人に相続税が課税されていること、(3)その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していることで、これらの要件の全てを満たす必要がある。

取得費に加算する相続税額は、「その者の相続税額×その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の価額÷(その者の相続税の課税価格+その者の債務控除額)」の算式で計算した金額。ただし、その金額がこの特例を適用しないで計算した譲渡益(土地、建物、株式などを売った金額から取得費、譲渡費用を差し引いて計算する)の金額を超える場合は、その譲渡益相当額となる。譲渡した財産ごとに計算する。

この特例の適用を受けるためには、一定の書類を添えて確定申告をすることが必要となる。確定申告書に、(1)相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書、(2)譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書、の書類等を添えて提出することになる。なお、(1)の計算明細書を利用すると、取得費に加算される相続税額を計算することができる。