資産移転時期の選択に中立的な税制構築に向けて検討

政府・与党は、2023年度税制改正において、生前贈与でも相続でもニーズに即した資産移転が行われるよう、相続・贈与に係る税負担を一定にしていくため、「資産移転の時期の選択に、より中立的な税制」を構築していく方向で検討している。軸として、2003年度税制改正において暦年課税との選択制として導入された相続時精算課税制度に求められる煩雑な税申告を、少額であれば不要とする案が浮上している。

相続税・贈与税の一体化措置である相続時精算課税制度を選択した場合、それ以降の税負担は資産移転の時期の選択によらず一定となるため、生前贈与に対する抑制は働かないと考えられるが、必ずしも広く利用されている状況ではない。国税庁の統計年報(2020年分)によると、同制度は、課税件数4万件、贈与財産額0.7兆円、納付税額599億円に過ぎず、暦年贈与による贈与額(1.4兆円)・課税件数(36.4万件)と比較して減少傾向にある。

贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から、相続税よりも高い税率構造となっている。実際、相続税がかからない者や相続税がかかる者であってもその多くの者にとっては、相続税の税率よりも贈与税の税率のほうが高いため、若年層への資産移転が進みにくい。他方、相続財産の多いごく一部の者にとっては、相続税の税率よりも贈与税の税率のほうが低いため、財産を分割して贈与する場合、相続税よりも低い税率が適用される。

例えば、相続する財産が6億円超の場合(限界税率55%)、財産を4500万円以下に分割して贈与すると相続税よりも低い税率が適用される。一方で、相続する財産が4000万円の場合(限界税率20%)、財産を1000万円に分割しても、贈与税の限界税率は30%となり、相続税よりも高い税率に直面するため、生前にまとまった財産を贈与しにくい。そこで、「資産移転の時期の選択に、より中立的な税制」の構築が必要となってくるわけだ。

政府税制調査会は、資産移転の時期の選択に中立的な税制として、「資産の移転の時期にかかわらず、納税義務者にとって、生前贈与と相続を通じた資産の総額に係る税負担が一定となることで、『資産移転の時期の選択に中立的な税制』が図られている。贈与者(取得者)は、税負担を意識して財産移転のタイミングを計る必要がなく、ニーズに即した財産の移転が促される。一方で、意図的な税負担の回避も防止される」とのイメージを示している。

さらに、「主要国(米・独・仏)では、贈与税・遺産税(相続税)の税率表が共通で、相続・贈与に係る税負担の中立性が確保される制度を設けている。我が国においても、こうした諸外国の例を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税と暦年課税のあり方を見直し、格差の固定化を防止しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制を構築する方向で、検討を進める必要がある」としている。