2023-01-16
2023年度税制改正の焦点の一つとして、いわゆる“1億円の壁”の是正があった。政府税制調査会の会合でも、総所得1億円を境に税負担率が下がる「1億円の壁」と呼ばれる問題の是正を求める声が相次いだ。通常、所得課税は累進税率を採っており、4千万円超の部分には最大45%(地方税と合わせて55%)の税率がかかる一方、金融所得は一律15.315%(地方税と合わせて20.315%)と、金融所得がどれだけ高くても負担税率は同じだ。
所得税は累進税率なので、当然、所得が増えるにつれて負担率も上がるはずだが、実態は違う。財務省によると、年間の総所得が250万円までの人の所得税の負担率は2.6%、500万円までは4.6%、1000万円までは10.6%とどんどん上がっていき、年間の総所得が1億円の人の負担率は27.9%に達するが、ここがピークとなり、その先は所得が増えても負担率が下がるので「1億円の壁」と称される。
この要因には、1億円を超える大きな収入は、株式売却益などから発生する割合が大きいことから、トータルでの納税額が低くなることにある。そこで、1億円を超えると税負担率が減少し始めるため、富裕層は株式売却益や上場株式からの配当に係る金融所得を増やそうとする。申告納税者の税負担率は、所得1億円の人は約30%、100億円の人は約20%だが、今の金融所得課税は“金持ち優遇”の制度になっているとの批判が根強かった。
そこで、金融所得課税を見直し、所得が30億円を超えるような富裕層に対し課税強化する。合計所得金額から3.3億円を差し引いたうえで22.5%の税率をかけた金額で計算し、これが通常税額を上回る場合に差額を徴収する。所得が30億円を超える200~300人が対象となる見込みで、所得50億円のケースでは2~3%負担が増えると想定している。2025年から適用する。
当初、見直しの方向として、(1)総合課税に含めて給与などと合算して課税する、(2)利益に応じて金融所得の税率を変更する、などの方法が提案されていた。しかし、金融所得の税率が20.315%から引き上げられると、資産形成のために投資している一般投資家が株式市場から離れてしまう懸念もある。結局、所得30億円を超える大富裕層への課税強化となったが、「1億円の壁」の是正はならず、今後の議論の行方が注目されるところだ。