骨太の方針に退職所得課税制度の見直しを明記

政府は、退職所得課税制度の見直しを行う。これは、6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)と「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」に、成長分野への労働移動の円滑化のための施策の一環として盛り込まれたものだ。同じ会社に長く勤めるほど優遇される退職金への課税制度を見直し、勤続年数による格差の是正を図る。

骨太の方針では、「退職所得課税については、勤続20年を境に、勤続1年当たりの控除額が40万円から70万円に増額されるところ、これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある。制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う」と明記して、転職すると不利になる現行の退職所得課税制度を是正する方針だが、具体的な見直し内容、時期は記されていない。

退職所得の課税方式は、他の所得と区分する分離課税で、収入金額から退職所得控除額を控除後の金額を2分の1にした退職所得金額に、対応する税率を掛けて税額を算出する。例えば、退職一時金が2000万円で勤続年数30年の場合の退職所得控除額は、「40万円×20年」と「70万円×10年」の合計の1500万円となる。これを2000万円から控除し2分の1にした250万円が退職所得金額となる。

ただし、2分の1課税は、勤続年数5年以下の法人役員等には適用されず、また、勤続年数が5年以下であれば法人役員等以外であっても、退職所得控除額を控除した残額のうち300万円を超える部分については、2分の1課税は適用されない。現行の退職所得課税の仕組みは、勤続年数が長いほど厚く支給される企業の退職金支給形態を反映した終身雇用を前提としたものとなっているわけだ。

政府税制調査会では、従来から、転職の増加など働き方の多様化を踏まえると、今後も長期勤続の場合を特に優遇していくことが適当かどうか検討すべきと指摘していた。その一方、退職金が、退職後の生活の原資に充てられ、重要な人生設計上の期待にも関わる問題であることから、見直す場合は経過措置も含めた適切な工夫が必要との考えも示していた。退職所得課税を巡って、今後の議論が注目される。