TOB成立後上場廃止での株式の譲渡所得の申告漏れ

国税庁は、株式公開買い付け(TOB)の成立で上場廃止となった株式に関し、譲渡所得の申告漏れが目立つことから、注意を喚起している。TOB成立後、上場廃止となった株式をTOBによる買付者などに買い取られた場合に譲渡益が生じたときには、所得税の申告が必要になる。「譲渡益」とは、譲渡代金(買取価額)から取得費等を差し引いて計算した利益をいう。

TOBは近年、上場企業に対するM&Aの手法として一般化している。国税庁は、TOBの買付総額が高額なものもあり、上場廃止後の株式譲渡に係る申告漏れの増加が懸念されたことから、株式を買い取った企業から税務署に提出されている「株式等の譲渡の対価の支払調書」(法定調書)に基づき、サンプル的に調査等を実施したところ、申告が必要であるにもかかわらず、申告漏れとなっているケースが多数把握されたという。

国税庁によると、TOBに応じなかった株主379人を対象に抽出調査した結果、約半数にあたる199人から申告漏れが見つかり、その申告漏れ所得金額は4億7495万円、追徴税額は7258万円で、申告漏れ1件当たりの追徴税額は36万円だった。申告漏れが把握された事例の中には、1億8216万円と2億円近い多額の譲渡益が生じていたにもかかわらず、無申告となっていたものが含まれており、追徴税額3151万円が課されている。

この申告漏れの背景にあるのは、株式を管理する口座が変わること。投資家の多くは、上場株式との取引を対象とする「源泉徴収ありの特定口座」を使っており、同口座は証券会社が売買損益や税額を計算して口座から天引きするため、投資家は自分で確定申告する必要がない。しかし、TOB成立で上場廃止となった企業の株式は、投資家自らが売買損益や税額を計算する「一般口座」での取引となり、利益が生じれば申告する必要がある。

つまり、TOBの成立後に上場廃止となった株式をTOBによる買付者などに買い取られた場合には上場株式の譲渡ではなく、証券会社を通さない相対取引となるため、特定口座内での損益の計算はされず、また、他の上場株式の譲渡所得との損益通算や繰越控除ができない。国税庁は、上場廃止となった株式をTOBによる買付者などに買い取られた場合は、申告漏れがないか確認するよう呼びかけている。