国税不服審、2023年7月~9月分の裁決事例を公表

国税不服審判所はこのほど、2023年7月から9月分の裁決事例を同審判所ホームページ上にある「公表裁決事例要旨」及び「公表裁決事例」に追加し公表した。今回公表された裁決事例は、2事例(所得税法関係1件、国税徴収法関係1件)にすぎないが、今回は、2事例とも、賦課決定処分の一部を取り消し・全部取消しており、実務家にとっても参考となると思われる。

ここでは、審判所が、請求人の諸事情を考慮すれば、各不動産を公売に付する時期について、原処分庁に裁量権の範囲の逸脱等があったとは認められないから、公売公告処分は適法とした上で、しかし、原処分庁が分割納付誓約期間内に公売に付したという時期の判断において、その裁量権の行使が差押財産の換価に関する制度の趣旨・目的に照らして合理性を欠く不当な処分であると判断し、公売公告処分を全部取り消した事例を紹介する。

同事例は、原処分庁が、審査請求人の滞納国税を徴収するため、運送業を営む請求人が所有する駐車場等の各不動産の公売公告処分を行ったのに対し、請求人が、滞納国税について「分割納付誓約書」を提出し、これに基づく納付計画に従って納付を継続していることからすれば、その分割納付計画の期間中にした公売公告処分は、公売に付すべき時期を誤った違法又は不当な処分であるとして、その全部の取消しを求めたものだ。

原処分庁は、差押財産を公売に付すべき時期については、国税の徴収の所轄庁の合理的な裁量に委ねられていると解されており、請求人が「分割納付誓約書」による分割納付を行っているからといって、公売手続きが停止するとの見解を表明していないなどの事情を考慮すれば、請求人が所有する各不動産の公売公告処分は、公売に付すべき時期について裁量権の範囲内で合理的に行われたものだから、違法又は不当な処分ではない旨主張した。

裁決は、請求人の諸事情を考慮すれば、各不動産を公売に付する時期について、原処分庁に裁量権の範囲の逸脱等があったとは認められないから、公売公告処分は適法とした。その上で、しかし本件は、請求人が提出した分割納付誓約書の誓約期間内に、納付計画どおりの自主納付をする蓋然性が高く、また、各不動産を直ちに換価することで、換価額の下落の回避又は換価額の相対的な価値の維持ができたなどの徴収上有利となる事情がないと指摘。

また、原処分庁の徴収担当職員が、分割納付誓約期間内に各不動産が公売に付されることはないとの請求人の期待を排斥しなかったので、各不動産の代替土地を確保し得る機会及び期間が事実上なくなったことなどの事情を考慮すれば、公売公告処分は、公売に付する時期の判断において、その裁量権の行使が、差押財産の換価に関する制度の趣旨・目的に照らして合理性を欠く不当な処分と判断し、公売公告処分を全部取り消した。

2023年7月から9月分の裁決事例は↓
https://www.kfs.go.jp/service/JP/idx/132.html