2024-11-11
2024年8月、大手企業ソフトバンクグループが「PayPay」を通じて賃金のデジタル払いを行う事業者として、国内で初めて厚生労働省から指定を受けた。これにより、希望する従業員がPayPay口座で給与を受け取れるようになり、現金や銀行振込に代わる新たな支払方法として注目されている。
「賃金のデジタル払い」は、令和5年4月に法改正で解禁され、従来の現金や銀行振込に加えて、労働者の同意を得た場合に資金移動業者の口座を利用する支払いも認められるようになった。ただし、デジタル払いは強制することは許されず、あくまで労働者の同意が必要である。
資金移動業者には厚生労働大臣の指定が必要であり、厳格な基準が設けられている。例えば、口座残高が100万円を超えないように管理する体制や、万が一破綻が発生した場合に労働者の資産が速やかに補償される仕組みが求められる。こうした条件は、労働者の資産を守るために設けられたもので、資金決済法に基づいて定められている。
賃金がデジタル払いであっても、源泉徴収や社会保険料の天引きは従来通り行われる。ただし、実務では、諸々の事情から、控除額が給与から控除しきれないケースや過大支給の返還など、別途従業員から追加徴収することが必要になるケースもあり、デジタル払いを円滑に導入するためには、こうした実務的な課題への対応も重要である。
帝国データバンクが実施した調査(2024年10月)では、「賃金のデジタル払いを導入予定なし」と回答した企業が約9割を占めている。主な理由として、業務負担の増加やセキュリティリスクへの懸念が挙げられ、特に中小企業にとっては新たなシステム導入によるコスト負担が重くのしかかるようだ。
一方で、賃金のデジタル払いには、振込手数料の削減や従業員満足度の向上といったメリットも期待されている。キャッシュレス決済を日常的に利用する若年層の従業員にとっても、給与受け取りの利便性が増し、企業の魅力向上にもつながる可能性もある。
今後、賃金のデジタル払いを検討する企業は、法令の要件と労働者の同意を十分に確認することが不可欠である。
(参考)
厚生労働省「賃金のデジタル払いについて」
厚生労働省「賃金のデジタル払いにおける資金移動業者の指定」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41528.html
帝国データバンク「賃金のデジタル払い 対応状況アンケート」
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20241016_digitalsalary/