富裕層1件当たりの追徴税額は実地調査全体の約2倍

国税当局では、有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な者などいわゆる“富裕層”に対して、資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に調査を実施しており、所得税調査における“重点課題”と位置付けて積極的に取り組んでいる。今年6月までの1年間(2016事務年度)には、前年度比4.3%減の4188件の富裕層に対する実地調査が行われ、同14.5%減の申告漏れ額441億円を把握した。

富裕層に対する所得税調査の結果、調査件数の約81%に当たる3406件(前年度比2.1%減)から何らかの非違を見つけ、その申告漏れ所得金額は441億円(同14.5%減)で、加算税を含め127億円(同5.8%増%減)を追徴。1件当たりの申告漏れ所得金額は1054万円(同10.6%減)、追徴税額304万円(同11.4%増)となり、追徴税額は、所得税全体の実地調査(特別・一般)1件当たり154万円と比べ約2倍にのぼる。

また、近年資産運用の国際化が進んでいることから国税当局では富裕層の海外投資等にも目を光らせており、同期間中にも海外投資を行っていた533件(前年対比5.7%減)に対して調査を展開し、約90%に当たる478件(同3.7%増)から137億円(同18.5%減)の申告漏れ所得金額を把握、41億円(同4.7%減)を追徴している。1件当たりの申告漏れ所得金額は2576万円(同13.3%減)と高額だ。

調査事例をみると、自動的情報交換資料等の活用から海外の預金に係る申告漏れを把握したものがある。調査対象者Aは、自動的情報交換資料により、海外の預金に係る多額の利子が生じていたことが分かったが、その利子が申告されていないと想定されたため、詳細を解明すべく調査に着手。その結果、Aは、X国の銀行に多額の預金を保有し、その預金から生じた利子や、海外所有の不動産の売却益が申告漏れとなっていたことから課税した。

また、Aは、3億円以上の国内財産、5千万円超の国外財産を保有しているにもかかわらず、財産債務調書及び国外財産調書を提出していなかったため、各調書の提出を求め、提出を受けるとともに、国外財産に係る加算税を5%加重し賦課した。Aに対しては、3年間での申告漏れ所得金額約9300万円について、追徴税額(加算税込み)約2900万円を賦課している。

国税庁では、このように、いわゆる“富裕層”に対して、資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に置いて、国外送金等調書、国外財産調書、租税条約に基づく自動情報交換資料などのさまざまな情報を活用し、海外取引・海外資産関連収入の的確な把握及び積極的な調査に取り組んでいる。近年の所得税調査は、富裕層を始め社会的波及効果の高い、かつ、高額・悪質を優先した深度ある調査が特徴となっている。