注目されるCRS情報、租税回避や脱税防止に期待

国際的な租税回避や脱税防止のために、国税当局が進めるCRSに基づく非居住者金融口座情報(CRS情報)の自動的情報交換による情報の拡充が注目されている。CRSとは、経済協力開発機構(OECD)が策定した非居住者の金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準であるCommon Reporting Standardの略。わが国は、このCRS情報交換制度に2018年から参加した。

各国の税務当局は、自国に所在する金融機関から非居住者が保有する金融口座情報の報告を受け、租税条約等の情報交換規定に基づき、その非居住者の居住地国の税務当局に対し、その情報を自動的に提供する。わが国では、これまでも海外当局と連携し一定の効果を上げてきたが、2015年度税制改正において、金融機関による非居住者の口座情報の報告制度を整備し(2017年1月施行)、各国との自動的情報交換の基盤を整えた。

その結果、国税庁は、2018年以後、毎年4月末までに国内に所在する金融機関から報告を受け、その年の9月末までに外国の税務当局に対し情報提供を行うとともに、外国の税務当局から、その国の金融機関に日本の居住者が保有する金融口座に関する情報の提供を受けている。日本居住者が海外に持つ口座情報(顧客の氏名、住所、口座残高、利子・配当の年間受取総額等)が自動的・電子的・義務的に収集できるわけで、その効果は大きい。

国税庁では、受領したCRS情報を活用し、利子・配当等の申告漏れ、相続財産の申告漏れの把握のほか、国外送金等調書、国外財産調書、財産債務調書、その他既保有の様々な情報と併せて分析することで、海外取引・海外資産を的確に把握し、課税上の問題が認められる場合には確実に税務調査等を実施している。また、CRS情報は富裕層や海外取引法人等の新規把握のほか、海外への資産隠し等の検討をする上で、有益な情報となり得る。

例えば、相続税の税務調査においては、死亡者情報等とCRS情報を突合させることにより、海外資産に係る申告漏れを、また、国外財産調書の記載内容とCRS情報の海外口座残高を突合した結果、金額に開差がある場合は、財産の記載漏れ等を発見する端緒となる。CRS情報から海外口座残高が5000万円超であると認められるにもかかわらず、国外財産調書が未提出である場合、未提出者に対し提出を求めることになる。

CRS情報を活用した調査事例では、被相続人Aの相続税申告において海外資産の計上はなかったものの、受領したCRS情報と突合すると、X国の預金の申告漏れが想定されたため、調査に着手したものが明らかにされている。調査の過程で、X国の預金が相続財産であることが判明し、さらにAが生前にX国に不動産を保有しており、その不動産についても相続税の申告漏れがあったことが判明している。