2016-11-10
経済社会の国際化に伴い、国際的な課税問題は企業のみならず個人の富裕層にも広がりを見せている。国税庁は、今年6月までの1年間(2015事務年度)に海外投資を行っている者を対象に前年度比0.8%増の3348件の実地調査を実施し、同1.5%減の総額約636億円の申告漏れ所得を把握した。1件平均では同2.3%減の1899万円だが、この金額は、実地調査(特別・一般調査)全体での1件平均941万円の約2倍にのぼる。
海外投資調査3348件を取引区分別にみると、「海外投資」(預貯金等の蓄財を含む海外の不動産や証券などに対する投資)が全体の32.1%を占める1074件、「輸出入」(事業での売上や原価に係る取引で、海外の輸出(入)業者との契約による取引)が同13.4%の450件、「役務提供」(工事請負やプログラム設計など海外において行う、労力・技術等の第三者に対するサービスの提供)が同9.1%の304件となっている。
そのほか、海外で支払いを受ける給与や贈与(親族に対する海外送金等)など海外取引に係るもので上記の取引に該当しない「その他」が全体の45.4%を占める1520件だった。これらの海外取引調査の結果、1件当たりの申告漏れ所得が平均で1899万円見つかったわけだが、取引区分別では、「海外投資」で2300万円、「輸出入」で621万円、「役務提供」で1529万円、「その他」で2067万円が、それぞれ把握された。
事例では、会社役員Aは、自動的情報交換資料から、海外での資産運用等が想定されたことから、調査に着手したものがある。調査の結果、Aは、外国法人の株式(未公開)を譲渡し多額の譲渡所得が発生していたが、その所得が申告漏れとなっていたことを把握。また、その株式の配当や海外預金の利子についても申告漏れとなっていた。国外財産調書が未提出だったため、その国外財産に係る過少申告加算税を5%加重して賦課した。
Aに対しては、所得税(4年分)の申告漏れ所得金額約6億5000万円について税額(加算税含む)約1億1000万円が追徴されている。なお、「自動的情報交換資料」とは、租税条約等に基づき、法定調書から把握した非居住者等への利子等(利子、配当、不動産賃借料、無形資産の使用料、給与・報酬、株式の譲受対価等)に関する情報を、支払国の税務当局から受領国の税務当局へ一括して送付するものだ。