査察の告発事案は100%有罪、平均懲役月数15.5ヵ月

査察、いわゆるマルサは、大口・悪質な脱税をしている疑いのある者に対し、犯罪捜査に準じた方法で行われる特別な調査だ。調査にあたる国税査察官には、裁判官の発する許可状を受けて事務所などの捜査をしたり、帳簿などの証拠物件を差し押さえたりする強制捜査を行う権限が与えられる。この査察調査は、単に免れた税金や重加算税などを納めさせるだけでなく、検察への告発を通じて刑罰を科すことを目的としている。

刑罰とは懲役や罰金だが、実をいえば以前は、実刑判決はなく、執行猶予と罰金刑で済んでいた。しかし、懲りない面々に対し“一罰百戒”効果を高めるため、1980年に初めて実刑判決が出されて以降は、毎年実刑判決が言い渡されている。先般公表された2019年度版査察白書によると、2019年度中に一審判決が言い渡された124件の100%に有罪判決が出され、うち5人に対し執行猶予がつかない実刑判決が言い渡されている。

実刑判決で最も重いものは、査察事件単独に係るものが懲役10ヵ月、他の犯罪と併合されたものが懲役9年だった。例えば、A社は、プロセッサ開発・製造・販売等を行うものだが、架空の外注費を計上するなどの方法により所得を隠し、多額の法人税及び消費税を免れていた。同社の元代表者Bは、詐欺罪との併合事件として、法人税法、消費税法及び地方税法違反の罪で、懲役5年の実刑判決を受けている。

一審判決があった124件の1件当たり平均の犯則税額は4700万円、懲役月数は15.5ヵ月、罰金額は1200万円だった。査察の対象選定は、脱税額1億円が目安といわれ、また、脱税額や悪質度合いの大きさが実刑判決につながる。査察で告発されると、社会的信用を失うだけでなく、巨額な罰金刑や実刑判決もありうる。ちなみに、刑罰は10年以下の懲役に、罰金は1000万円(脱税額が1000万円を超える場合は、脱税相当額)以下となっている。

2019年度査察白書によると、すでに着手した査察事案について、同年度中に告発の可否を最終的に判断(処理)した件数は165件で、このうち検察庁に告発した件数は70.3%(告発率)にあたる116件だった。ここ5年は60%台の告発率だったが、2019年度は久しぶりの70%台となった。つまり、査察の対象になると、6~7割程度が実刑判決を含む刑事罰の対象となる。くれぐれも甘い考えを起こさないでいただきたい。