2021-06-30
査察、いわゆるマルサは、大口・悪質な脱税をしている疑いのある者に対し、犯罪捜査に準じた方法で行われる特別な調査だ。調査にあたる国税査察官には、裁判官の発する許可状を受けて事務所などの捜査をしたり、帳簿などの証拠物件を差し押さえたりする強制捜査を行う権限が与えられる。この査察調査は、単に免れた税金や重加算税などを納めさせるだけでなく、検察への告発を通じて刑罰を科すことを目的としている。
刑罰とは懲役や罰金だが、実をいえば以前は、実刑判決はなく、執行猶予と罰金刑で済んでいた。しかし、懲りない面々に対し“一罰百戒”効果を高めるため、1980年に初めて実刑判決が出されて以降は、毎年実刑判決が言い渡されている。先般公表された2020年度版査察白書によると、同年度中に一審判決が言い渡された87件のうち86件(98.9%)に有罪判決が出され、うち6人に対し実刑判決が言い渡されている。
実刑判決で最も重いものは、査察事件単独に係るものが懲役2年6ヵ月、他の犯罪と併合されたものが懲役3年だった。例えば、暗号資産事案では全国初の告発事案となったものがある。Aは、ビットコイン等の暗号資産の取引を行い、多額の利益を得ていたが、同取引に係る利益を申告から除外する方法により所得税を免れていた。Aは、所得税法違反の罪で、懲役1年(執行猶予3年)及び罰金1800万円の判決を受けた。
一審判決があった87件の1件当たり平均の犯則税額は5700万円、懲役月数は14.1ヵ月、罰金額は1300万円だった。査察の対象選定は、脱税額1億円が目安といわれ、また、脱税額や悪質度合いの大きさが実刑判決につながる。査察で告発されると、社会的信用を失うだけでなく、巨額な罰金刑や実刑判決もありうる。ちなみに、刑罰は10年以下の懲役に、罰金は1000万円(脱税額が1000万円を超える場合は、脱税相当額)以下となっている。
2020年度査察白書によると、すでに着手した査察事案について、同年度中に告発の可否を最終的に判断(処理)した件数は113件で、このうち検察庁に告発した件数は73.5%(告発率)にあたる83件だった。この告発率73.5%は前年度を3.2ポイント上回り、2008年度以来の高水準だった。つまり、査察の対象になると、7割前後程度が実刑判決を含む刑事罰の対象となる。くれぐれも甘い考えを起こさないでいただきたい。