2021-07-01
国税不服審判所は、2020年10月から12月分の裁決事例を同審判所ホームページ上にある「公表裁決事例要旨」及び「公表裁決事例」に追加し公表している。今回公表された裁決事例は、6事例(国税通則法関係2件、法人税法関係3件、相続税関係1件)だった。今回は、全部取消し1事例をはじめ2事例において納税者の主張の何らかが認められており、実務家にとっても参考となると思われる。
ここでは、全部取り消しとなった法人税法関係の、請求人が請求人の元代表者に退職金として支払った金員は、当該元代表者に退職の事実があるから、損金の額に算入されるとした事例を紹介する。本事例は、請求人の代表取締役及び取締役を辞任した元代表者が、辞任後も継続して請求人の事業運営上の重要事項に参画していたとは認められず、請求人を実質的に退職していなかったとは認められないとしたものである。
元代表者に対して支給した退職金の金額を損金の額に算入して法人税等の申告を行ったところ、原処分庁は、請求人の元代表者が、退職後においても、引き続き請求人の経営に従事しており、みなし役員に該当するから、実質的に退職したとは認められないとして、請求人が本件元代表者に支払った退職金の金額は、法人税法第34条《役員給与の損金不算入》第1項括弧書き所定の退職給与に該当しない旨主張した。
裁決は、原処分庁がその認定の根拠として摘示する各事実には、その裏付けとなる退職当時の客観的な証拠がなく、各関係者の各申述においても、本件元代表者の請求人への具体的な関与状況が明らかではなく、そして、本件元代表者は、退職後に請求人から報酬等を受領していないと認められ、本件元代表者の退職後に請求人の代表取締役となった者が、その代表取締役としての職務を全く行っていなかったと認めるに足りる証拠もないと指摘。
これらのことから、本件元代表者が、本件辞任後も継続して、請求人の事業運営上の重要事項に参画するみなし役員に該当し、請求人を実質的に退職していなかったと認めることはできないほか、本件金員が退職給与として損金の額に算入されないと判断すべきその他の事情もないことから、本件金員は、退職給与として、請求人の損金の額に算入されるとして、原処分の全部を取り消している。
2020年10月から12月分の裁決事例は↓
https://www.kfs.go.jp/service/JP/idx/121.html