2021-07-13
金融庁の「金融所得課税の一体化に関する研究会」は、本年5月から計3回にわたり、損益通算の対象をデリバティブ取引まで拡大することに伴う課題や論点について議論を行ったことを踏まえ、その論点整理を取りまとめ公表した。金融所得課税の一体化については、2021年度与党税制改正大綱において、「デリバティブを含む金融所得課税の更なる一体化については、関係者の理解を得つつ、早期に検討」との記載が盛り込まれていた。
論点整理では、金融所得課税について、デリバティブ取引についても損益通算の対象に含めることにより、既に損益通算対象の金融商品とデリバティブ取引との間で課税の公平性・中立性、簡素で分かりやすい税制の実現にもつながるとの考えを示した。その上で、税制改正の具体的な要望を行うに当たっては、(1)損益通算の対象、(2)租税回避防止策、(3)個人投資家の利便性、(4)個人投資家への影響について、検討を行うことが必要とした。
損益通算の対象では、個人投資家が行うデリバティブ取引には、市場デリバティブ取引と店頭デリバティブ取引があり、その主な原資産には、有価証券関連、コモディティ関連、金利・為替関連等がある。金融所得課税の一体化の対象としては、デリバティブ取引全体とすることが望ましいが、まずは、「有価証券市場デリバティブ取引」について損益通算の対象としていくことが適切との考えを示している。
租税回避防止策では、米国で導入されている時価評価課税を参考に議論が行われ、デリバティブ取引への時価評価課税の導入は、実現損だけでなく含み益に対しても課税されることとなるため、ストラドル取引に対する有効な租税回避防止策になり得る。しかし、個人投資家の場合には、余剰の現金不足もあることから、デリバティブ取引の時価評価を事前に届け出た者のみ時価評価課税(損益通算)を認めれば十分との意見があった。
また、個人投資家の利便性や税務当局における行政運営コストは重要な要素だから、デリバティブ取引を上場株式等との損益通算の対象とする場合は、特定口座の活用が考えられる。特定口座でデリバティブ取引を取り扱えれば、幅広い個人投資家にとっての利便性の向上が期待でき、さらに、特定口座において源泉徴収が可能となれば、円滑な納税に資することとなり、金融機関がその利用に向けて取り組むことが望ましいとした。
個人投資家への影響について、上場株式等との損益通算の対象を有価証券市場デリバティブ取引に限定すると、これまで認められてきたデリバティブ取引内での損益通算が、その他のデリバティブ取引との間では認められなくなるが、個人投資家の多くが主に株式取引を行っていることを考慮すると、デリバティブ取引内の損益通算より上場株式等との損益通算のほうが、全体として得られるメリットが大きいのではとの考えを示している。