2022-03-31
国税不服審判所は、2021年7月から9月分の裁決事例を同審判所ホームページ上にある「公表裁決事例要旨」及び「公表裁決事例」に追加し公表した。今回公表された裁決事例は、7事例(所得税法関係1件、相続税法関係4件、贈与税関係1件、財産の評価関係1件)だった。今回は、7事例すべてにおいて全部取消し又は一部取消など、納税者の主張の何らかが認められており、実務家にとっても参考となると思われる。
ここでは、贈与税の課税価格の計算について、請求人の夫名義の預金口座から請求人名義の証券口座に金員が入金されたことは、本件の各事情を考慮すれば、その請求人名義の証券口座において夫の財産がそのまま管理されていたものと評価するのが相当であるとして、「相続税法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合」に該当しないと判断して納税者の主張を認めた事例を紹介する。
原処分庁は、請求人の夫名義の預金口座からの金員が入金された請求人名義の証券口座について、(1)請求人自身の判断で取引を行っていたこと、(2)本件口座の投資信託の分配金が請求人名義の普通預金口座に入金されていたこと、(3)その分配金等を請求人の所得として確定申告がされていたことから、本件入金は、相続税法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当する旨主張した。
しかし裁決は、(1)請求人は、本件入金の前後を通じて夫の財産の管理を主体的に行っており、その管理に係る全部の財産が請求人に帰属していたとは認められないから、本件口座において請求人自身の判断で取引を行った事実をもって利益を受けたとは認められない上、(2)分配金等の入金があっても、請求人が私的に費消した事実が認められない本件においては、これを管理・運用していたとの評価の範疇を超えるものとはいえないと指摘。
さらに、(3)確定申告については、申告をすれば税金が還付されるとの銀行員の教示に従い深く考えずに行ったとの請求人の主張が不自然とはいえない、などの各事情を考慮すれば、本件入金によっても、夫の財産は、本件口座にそのまま管理されていたと評価するのが相当なため、本件入金は、請求人に贈与と同様の経済的利益の移転があったとは認められず、相続税法第9条の規定に該当しないと判断、原処分庁の処分を全部取り消した。
2021年7月から9月分の裁決事例は↓
https://www.kfs.go.jp/service/JP/idx/124.html