2022-04-13
新しい財産管理や相続対策の方法として「家族信託」が注目されている。家族信託とは、「家族に自分の財産を信じて託し、代わって管理してもらう制度」のことをいう。メリットとして、認知症になったときに財産管理をしてもらう、相続トラブルを防ぐために相続対策できる、遺言書や贈与では難しい柔軟な二次相続対策ができる、判断力が低下したときの財産犯罪の防止策になる、事業承継対策として使うことができる、などがある。
家族信託では委託者、受託者、受益者の3者が当事者となる。財産の所有者である委託者が遺言や信託契約によって受託者に財産の管理処分の権限を与え、最終的に受益者が財産からの収益を受け取れるようにする形が一般的だ。また、委託者自身が受益者となることも問題なく、実際にはこの形が多い。メリットの多い家族信託だが、税金が発生するケースもあるので理解しておくことが大切だ。
原則的な家族信託の形では、委託者・受託者・受益者の3者が当事者となるが、この場合、委託者から受益者に対して財産の移転が行われたものとみなされ、贈与税が課せられることになる。贈与税は相続税と異なり非課税部分が少ないため家族信託の対象とする財産の金額が大きい場合には多額の贈与税が発生してしまう可能性がある。対策としては、委託者の生前は「委託者=受益者」としておくことが考えられる。
また、委託者の死亡によって受益者としての地位が相続された場合(あるいは、委託者の死亡を条件として信託契約の効果が生ずるとした場合)には、受益者に対して相続税が課税される。家族信託は委託者の生前は贈与税の発生を避けるために「委託者=受益者」となっていることが多いのだが、委託者の死亡によって受益者がその親族などに変わった際には、その親族に対して相続税が発生することになる。
そのほか、受益者となる人が家族信託の法律関係から発生する利益を受ける権利(信託受益権)を他人に売却した場合には、その売却から生じた利益に対して所得税や法人税が生じる。例えば、簿価1億円の信託受益権を1億5000万円で他人に売却したというような場合、1億5000万円から1億円を差し引いた5000万円は所得だから、譲渡所得税が課税されることになる。元の受益者が法人である場合には法人税が発生する。
なお、事業承継税制では、中小企業者が後継者に会社を運営するために株式を生前贈与したり、相続で取得させたりする場合には、その株式については相続税や贈与税の課税対象から除外することが可能になる。家族信託により事業承継を行う場合には数代先の後継者まで指定できるというメリットがあるが、相続税対策の効果は基本的に見込めない。事業承継については相続税の負担についても考慮に入れて適切な方法を選択する必要がある。