役員が病気のため職務が執行できない場合の税務

企業は、役員に支給する役員給与に関して、あらかじめ定められた支給基準に基づいて毎月同額を継続して支給している。そこで、役員の中に事業年度の途中で病気やケガ等で長期入院したことにより、一部の業務が執行できなくなったためその期間だけ役員給与を減額し、退院後通常業務が執行できるようになったことを理由に入院前の金額に戻した場合、この改定した役員給与は定期同額給与に該当するのか疑問が生じる。

役員給与は、事業年度の途中に簡単に変更することができないが、法人税で認められている3つの要件のいずれかに該当した場合に改定が認められている。まず要件の1は、定時株主総会の決議などにより、事業年度開始の日から3月を経過する日までにされた通常改定(ただし、継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額の改定が3月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にはその改定の時期となる)。

次に要件の2は、役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更があるなどのやむを得ない事情による臨時改定事由による改定。要件の3は、経営の状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情による業績悪化改定事由による改定(ただし、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこの要件に該当しない)。

したがって、役員の入院により一部業務役員給与の減額等の改定は、要件の2の臨時改定事由による改定に該当する。病気やケガによる長期入院は、予測できない偶発的な事情だ。そして、その結果予定されていた職務の一部が執行できなくなり、職務内容に重大な変更が生じたことを理由として給与を減額した場合は、やむを得ない事情による臨時改定として減額前も減額後の給与もどちらも定期同額給与になる。

また、退院後に予定されていた職務の執行が可能となったため、当初の給与額に戻す場合における増額前後の給与も、同じ理由で定期同額給与に該当する。ただ形式的に判断するのではなく、その役員の入院の経緯や入院期間、入院前後の職務内容の実態や、支給額とのバランス、減額決定の経緯等から総合的に判断する必要がある。入院という事実だけで必ず定期同額給与と認められるわけではないということだ。

つまり、利益調整等を目的とした改定でないことが明らかであれば、入院による改定は定期同額給与として損金計上が認められるわけだ。なお、要件2にいう「役員の職制上の地位」には自称専務、自称常務も該当しない。職制上の地位とは、会長、社長、副社長、専務、常務などの法人における役職を指し、定款等の規定又は総会若しくは取締役会の決議等により付与されたものをいう。したがって、自称専務等はこれに該当しない。